ヘビーソース オフィシャルウェブサイト。タングステン素材と日本の技術で造る、新しい自由。

Material & Technology / 素材と技術

タングステンという素材について

高融点金属。硬く、重く、脆く、貴重なレアメタル

タングステン粉末

融点約3400℃。金属の中でもっとも高温で溶ける金属です。また、比重が19.2g/cm3 と、とても大きく重い金属です。(鉛の1.7 倍、鉄の2.4 倍)タングステンは、鉱石から取り出され、まず、APT(パラタングステン酸アンモニウム)と言う白い粉になります。その後水素中での還元処理などを経て、灰色のタングステン金属粉になります。

タングステンの相場価格ですが、LMBというロンドンの金属専門誌にて市場価格が掲載され、その相場価格に準じた形で取引されます。しかし、現在は90%以上が中国産となっており、その価格は、需要と供給以外に、政治的要素が加わり、また投機の対象とされることも多々あるため、ここ10年ほどで、非常に高価かつ不安定な相場状態になっています。だから、タングステンの業界では、他の日本の産業空洞化以上のスピードで、中国へと移転してしまいました。皆様の使っているタングステン製品のかなりの割合は中国製となっていると思います。

タングステンはどうやって作る? 粉末冶金とは。

タングステン同様、重たい金属として知られる、“鉛”は、型に溶かして作ることが出来ます。しかしタングステンの融点は3400℃。入れ物や型も溶けてしまい、溶かして製造することは不可能です。またタングステンは一度溶けると再結晶し、手で折る事が出来る位の脆さになってしまいます。そのためタングステンは、粉末冶金、と言う方法で製造します。粉末冶金とは、馴染みのある” 陶器” 等を作る事と、粉を焼き固めると言う意味では同じです。

機械

ただ、金属の場合、焼成の条件が異なります。たとえば純タングステンの棒やワイヤーなどを作る時は、通常、3000℃以上の温度が必要です。高純度タングステンは再結晶化して脆くなりますので、高温の状態で鍛造します。こうすることで、タングステン結晶が繊維化され、延性が出ます。ただし、この方法は、ルアー製造などには向いていません。(お金がかかります)そこで、温度が低くても、引き締まった、密度の高い高機能な製品を作れるように、他の金属などの添加物を入れたりします。同時に、錆びを防止したり、延性(曲げやすくすること)を高めたり、といった機能を向上させることも行います。 より良い性能を導き出すためには、色々な温度や雰囲気(タングステンは空気中で焼くと錆びてしまうので、水素や真空等で焼く)などの条件を、何度も何度も繰り返し最適化する必要があります。HEAVY SOURCE では、こういう最適条件を探りながら、開発することが仕事で、それをルアーに生かして行きます。

タングステン製品の種類とその製造コスト

一口にタングステン製品といっても、実はさまざまな種類のタングステン製品があります。下記に代表的なものを挙げてみます。

1.純タングステン・ドープタングステン製品(棒・ワイヤー・板材等)

純タングステン・ドープタングステン製品(棒・ワイヤー・板材等)

私たちが所属するタングステン・モリブデン工業会(http://www.jtmia.com/index.htm)など専門の業者の間では、純タンと言うのは、最低でも純度99.9%以上のタングステン製品となります。通常、ランプ用のフィラメントや放電灯の電極などに使われるタングステンはこれにあたります。比重も19.2g/cm3で、高温使用に耐えられるように、微量のドープ(添加)成分が入っています。

さらに純度が高い、高純度タングステンというのは、最低でも99.99%以上のタングステンで、半導体製品や超高圧放電灯など、特殊な用途に使用されます。製造方法は、粉末冶金(焼結製法)ですが、何度にもわたり、水素雰囲気中などによって、熱処理を施され、最終的に高温焼結した後、熱間でのスエージングという絞り圧延加工およびドローイングという、線を細い金型に通し細く精密に仕上げていく工程、さらに線を延ばす伸線加工や研磨加工を経て、棒材やワイヤー材に仕上がる、非常に手間とコストがかかる製法、製品です。そのほか数パーセント、セリウムやトリアを入れたセリタン、トリタンなどはTIG溶接棒に使用されたり、レニウムを入れたレニウムタングステンは半導体検査用プローブや、ブラウン管テレビなどに利用されています。

2.タングステンアロイ(タングステン重合金、タングステンカーバイト)

タングステンアロイ(タングステン重合金、タングステンカーバイト)

用途により、純度以上に他の特性が求められる場合、それにあわせた材料の調合、製法となります。タングステンアロイといった場合、通常、粉末冶金製法(焼結)によって製造されたタングステンを多く含む合金になります。HEAVY SOURCEのタングステンスプーンもこのジャンルです。タングステン重合金のほとんどはその重さを利用するもので、タングステンシンカーなどに使われているように一般的に95%タングステン含有にニッケルと銅、又は鉄が含まれます。

金属加工のバイトなどに使われる、“超硬(チョウコウ)”は、タングステンとカーボンが組み合ったタングステンカーバイト(WC。トイレではありません)と添加剤としてCo(コバルト)を焼結した物です。タングステンのアロイ(合金)としては似ていますが、製法が若干異なり、また設備が共用しづらいため、この超硬とタングステン重合金は意外と異なる企業・業界となることが多くなります。これら焼結製品は、タングステン原料のほかに、何十時間もの高温炉の電気代、還元雰囲気のための水素ガス、圧延、ドロー、成型の金型代などが掛かり、非常に高コストになります。

3.樹脂タングステン製品

樹脂タングステン製品

これまでは粉末冶金(焼結)技術を伴う製品でしたが、そのほかに、タングステンに樹脂をあわせた製品などがあります。これは基本的には、タングステンと樹脂を混ぜ合わせて製造したもので金属とは呼べず、基本的に樹脂製品です。焼結工程が無いために比較的安価になります。射出成型などに用いるためには、流動性を確保しなければならず、そのためにはポリアミドなどの樹脂のブレンドと、タングステンの粉の選定が重要となります。また柔軟性をもった樹脂やゴムとあわせて、フレキシブルシートを製造することも可能です。


HEAVY SOURCE 焼結タングステンスプーンの主要工程の説明

タングステンアロイ製品の作り方は各種あります。ここでは、少量生産にて行われるHEAVY SOURCE焼結スプーンの主要工程を説明します。
タングステンアロイ製品は、普通の金属プレス製法とは大きく異なります。

主要工程フローチャート

① 粉末混合
粉末混合

まず、タングステン粉及び、その他添加金属を混ぜます。焼結の場合、ここでの各種粉の最終的な粒度や混合度が、後の焼結状態の良し悪しに多大な影響を及ぼすので、その条件出しや、方法は重要になります。混合は数十時間に及ぶこともあります。

② バインダ混練
バインダ混練

次に、ツナギとして、少量のバインダ(樹脂など)を添加し、混ぜます。場合後の成型方法によっては、樹脂量を増やし、ニーダーと呼ばれる機械で均一になるように練る事になります。それをある程度細かい粉や粒の小さいペレットに造粒します。

③ プレス成型(又は、押し出しor射出成型)
プレス成型(又は、押し出しor射出成型)

次に、焼結前の成型を行います。プレス金型にバインダ入りのタングステンアロイ粉を入れてプレスする方法もあります。また、射出成型機に入れて、プラスティックルアーを作るようにする製法もあります。これを粉末射出成型、または、金属射出成型と呼びます。HEAVY SOURCEでは、金型も自社作成可能なので、どちらでも製造可能ですが、これらは製造の量によって、また、形状によって決定します。射出成型は比較的大量生産に向いている手法です。その場合、流動性を得るために樹脂バインダ量を多く入れる必要があるため、次の脱脂工程は比較的長くなります。

④ 脱脂+仮焼結
脱脂+仮焼結

焼結前成型工程で上がってきたワークから、ワックス(樹脂)分を抜き、また、脆いチョークくらいの硬さまで仮焼結します。ここでの温度の上げ方やキープの仕方(温度スケジュールと呼びます)で、後の製品が不良品になるか、良品になるかが決まる重要な工程です。バインダ内容にもよりますが、不活性雰囲気(窒素・アルゴン)か、還元雰囲気(水素)で行います。バインダが多く含まれる製品では、数十時間に及びます。

⑤ 本焼結
本焼結

ある程度焼結されたワーク(品物)を、水素雰囲気高温炉に入れて焼成します。タングステンに混ぜる添加金属の種類、量によって、最高温度など温度スケジュールは異なります。また、角度などの三次元形状を保ちたい物は、セッターと言われる置き台にも気を使います。雰囲気は通常は水素雰囲気で、時間は、やはり数時間から数十時間に及ぶこともあります。温度は低い物で1200℃。ヘビーアロイなら高いもので1600℃くらいです。(純タングステンの場合は3000℃にも及びます) また、脱脂~本焼結を終えると、バインダの量にもよりますが、成型体は15%~30%程度収縮します。この際、多少変形を伴うこともあります。

⑥ 熱間プレス成型
熱間プレス成型

POW(ノーマル)の場合、微妙なスプーンのカップ形状、角度を制御したかったため、焼結前にカップや角度成型を行わず、焼結後にプレス成型にてカップなどを作っています。タングステンアロイは、添加金属や量にもよりますが、重く、硬い反面、比較的脆く、冷間でプレスすると割れることもあります。よって、熱を加えながらプレスすることになります。

⑦ 酸処理・アニール処理
酸処理・アニール処理

後処理として、添加金属の若干の析出を取り除くために、酸処理をしたり、熱間プレスによって生じた酸化を還元するために水素中でアニールしたりします。

⑧ 研磨処理
粉末混合

塗装を美しくのせたり、また、裏面の輝きを出したり、バリを取ったり、R面を取ったりするために、研磨処理を行います。

⑨ 塗装
塗装

塗装を行います。現在は、自社工場内にてウレタンの手塗装をおこなっており、ほとんどハンドメイドです。 プライマーを吹き、焼付け。下地色、上色・・・クリア塗装。そして焼付け。タングステンは硬度が高く、比較的塗装ノリが悪いため、ある程度高温にて焼き付けていますが、マット系の塗装などはクリアコートがあるものに比較するとやはり剥がれやすい傾向にあります。

⑩ 梱包
梱包

このように、タングステン、特に焼結タングステンの製品は、他のプレスなどの金属加工製品に比べると、単に原材料単価が数十倍する、と言うだけでなく、電気代、ガス代、溶剤代・・・等々、高コストになりがちです。なんとかユーザーの皆様に喜んでもらえるように、品質のみならず、製造効率をあげてコスト削減にも取り組みたいと思います。


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